行動ターゲティングと個人情報保護
社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)「プリンターズサークル」1月号へ寄稿]
http://www.jagat.or.jp/BOOKS/PCsale/saleindex.html
昨年、アサツー ディ・ケイはDRO(Direct Response=Optimization)(R)を提唱した。これは、広告主にとって優良顧客を獲得するための最適な方法を提供するサービスである。ここで言う最適とは、「クリエイティブ+メディア」の組み合わせによって、CPA(顧客獲得単価)が最も低いことを意味する。当然、広告主は効率の高い広告投下を求めるので、広告主主導で行われるこの活動は今年も当面継続するであろう。これに対し、最近Webメディア側で盛んに騒いでいるのが「行動ターゲティング(Behavioral=Targeting)」という広告手法だ。これは、自社サイトへ訪れるユーザーのネットサーフ行動を把握し、個々のユーザーにとって有益な広告や情報を掲示するというもの。例えば、検索サイトで「ペット 旅行」をキーワードで情報検索し、ECサイトでは「ドッグフード」を購入しているユーザーの行動履歴をメディア側で把握し、そのユーザーに「犬と一緒に泊れる宿」や「ペット保険」などの広告や情報を提供しようというものである。確かにこの場合、宿泊施設や保険会社からすれば、ニーズの高い見込み客とのマッチングが保障される。
しかしその反面、2000年に米国Double=Click社がプライバシー擁護団体からプライバシー侵害に当たるとして活動を停止させられた例があるように、メディア主導で行う手法にはまだ課題が残されている。一説によれば、奴隷制度の影響で、人に数字を刻印して管理することを「悪魔の仕業」として、米国に限らず、キリスト教文化圏は嫌うようだが、韓国のように背番号制(住基ネット)を敷いている国もある。そのへんは賛否両論がある。前述の例で、犬の飼い主が、銀座のグルメ情報を見ようとしたら、そのページに「犬のおむつ」の広告が掲示されてたらどうだろうか。
ユーザーは、必要な時に必要な情報が欲しいわけで、それも、ある程度信用のおけるサイト(相手)なら、自身の要求に沿って必要な自分の情報を開示してくれるものであり、例え履歴であっても本人の断りなしに収集されるのは気色が悪い。
少々話はCRM領域にそれるが、札幌市立大学の武邑教授が語られた「“一見さんお断り”の京都お茶屋に見る和製CRMテクノロジー」というのがある。つまり、客(ユーザー)を平等に扱うのではなく、なじみの客というよりは、店を好んで利用している客には、お店も放ってはおけないわけで、手厚く対応するのは日本の昔から行われている慣わしである。この客と店との関係において、当然、双方で暗黙の了解のように一定のルールが定められている。客の嗜好(しこう)や流儀、作法に合わせて店はその客に「最適な」おもてなしをする。それは接客する女将や店員だけでなく、客の来訪時に出迎える際も、「おいでやす」「おこしやす」を使い分けてほかの客には分からぬように、確実に厨房にまで来店した客の情報を伝えるという凝りようだ。こうした関係を構築することこそ、まずはメディア側に必要だろうというのが筆者の考えである。活字媒体も同様であろう。
話を戻そう。20世紀末にあった「ワンto ワン マーケティング」という顧客一人ひとりとのコミュニケーションによるLTVの拡大化、そして昨年まで話題だった「ロングテール理論」、それら2つを実践し、成功した企業はどれだけあったのだろうか? 結局、この「個別対応」に疲弊してCPAの低下どころか業績自体の成長を見ないことを理由に、安直に「行動ターゲティング」に着目しても「3度目の正直」にはならないだろう。まずは、ユーザーの情報を段階的にでもユーザー自身から能動的にいかにすれば開示してもらえ、その気持ちに対しどうこたえることで関係を維持できるのかを再検討してもらいたい。